男性型脱毛症のメカニズムについては、男性ホルモンのテストステロンがⅡ型の5α-リダクターゼによってジヒドロテストステロンに変化し、これが毛乳頭細胞に作用することによって起こります。

では、これと同じことが女性の頭髪でも起きるのはなぜでしょう。女性が男性化したから、ではありません。私たちは男女を問わず女性ホルモン、男性ホルモン両方を体内で作りだしています。

女性と男性ホルモンの関係

女性の場合、卵巣や副腎内で男性ホルモンが作られ、これが筋肉や体毛に影響を与えます。つまり、男性型脱毛症を発症するメカニズムそのものは、男性も女性も基本的には同じです。

女性の血中男性ホルモンの値は男性の10分の1ですが、思春期には男女とも腋毛や陰毛が発育します。これらの毛包の毛乳頭細胞にはⅡ型の5α-リダクターゼがありませんが、Ⅰ型の5αリダクターゼとレセプターはあります。これで十分に腋毛や陰毛は男性ホルモンの影響を受けて発育します。男性型脱毛症にかかる男性の毛乳頭細胞にはⅡ型の5αリダクターゼが多いのですが、女性の頭頂部の毛包ではⅡ型の5αリダクターゼはあまり働いていないのではないでしょうか。

詳しくは調べられていませんが、Ⅱ型の5αリダクターゼを阻害する治療薬フィナステリドが女性の男性型脱毛症には効かないことから、そう推察されるのです。女性の男性型脱毛症は、閉経を迎える更年期に女性ホルモンの分泌が減少し、相対的に男性ホルモン過剰になるために発症しやすくなると考えられています。

女性の男性型脱毛症

男性の男性型脱毛症に診断の分類基準があるように、女性の男性型脱毛症にも視診による分類があります。1977年にE・ルドウィックが発表したものです。

男性では前頭部と頭頂部の脱毛が生じるのに対し、女性の男性型脱毛症では多くの場合頭頂部のみが脱毛し、生え際は保たれます。
男性型脱毛症は、男性の場合思春期が過ぎる頃から始まり、20代で脱毛が目立つ人もいますが、女性の場合はより高齢になってから気づくケースが多いようです。

同じ男性ホルモンによる脱毛なのに、男性と女性とでは脱毛の仕方が違うことに関しては、まだ理由が解明されていません。また、どういう女性が男性型脱毛症になりやすいかも、いまのところ不明です。

男性型脱毛症を発症した女性の血液中に含まれる男性ホルモンの値を調べても、多くの場合特別に高いというわけではありません。女性の男性型脱毛症については、まだ研究が始まったばかりなのです。

女性の脱毛の治療方法

女性の男性型脱毛症は、男性の治療法とは大きく異なります。男性型脱毛症の治療薬として、内服薬のフィナステリドが効果的だと前に説明しましたが、これは男性の患者さんに限ります。女性が男性型脱毛症にかかった場合、深刻な副作用の心配があるため、この薬は使われていません。

とくに、妊娠中の女性や妊娠しているかもしれない女性、また乳児に母乳を与えている女性にフィナステリドを処方することは医学界ではタブーとなっています。

フィナステリドの服用で生成を抑制されるDHT(ジヒドロテストステロン)は、思春期以降の男性に対しては脱毛を促進したり、前立腺を肥大させる悪影響を及ぼしますが、胎児には陰茎、陰嚢といった男性外性器を分化させる大切な役割を担っています。このため、男児をおなかに宿している女性がフィナステリドを服用すると、胎児の外性器が正常に発達しなくなる恐れが生じるのです。

ただし、フィナステリドは精子に影響をあたえるわけではありませんから、フィナステリドを服用している男性の子供を妊娠した場合でも、胎児に影響がでる心配はありません。

では、すでに閉経し、妊娠の可能性がない女性の場合はどうかと言えば、胎児に及ぼす副作用の心配は当然ありませんが、やはり病院ではフィナステリドを処方していません。更年期以降に男性型脱毛症を発症した女性には、フィナステリドの効果が見られないからです。

以上の理由から、女性の男性型脱毛症治療は、内服薬ではなく外用薬が中心になっています。もっとも一般的な外用薬は、毛の成長に直接関連する物質の産生を促進するミノキシジル溶液です。

欧米では、女性の脱毛症治療薬として2パーセントミノキシジル溶液が発売されていますが、日本で女性用の脱毛症治療薬として承認されているのは、ミノキシジルを1パーセント含む溶液(商品名:リアップレディ)。処方せんなしで購入できる医薬品が薬局で市販されています。ミノキシジルを含む治療薬は直接頭皮に塗って使用しますが、こちらには性ホルモンにかかわる副作用はありません。

ミノキシジルのほかには、ヘアサイクルに関連したFGF-7の産生を増やして毛を太くする育毛剤や、男性ホルモンの作用によって毛乳頭で産生されるTGF-βを抑制する育毛剤などが開発されています。

これらの外用薬で効果がない場合は、国内では一般的ではありませんが、フィナステリド以外の内服薬を処方することもあります。スピロノラクトン、シメチジン、デキサメサゾンといった薬や、経口避妊薬です。

また女性ホルモンを補充する療法などが検討されますが、これらの療法にはいずれも性ホルモン関連の副作用がありますので、皮膚科の専門医とよく相談して慎重に選ぶことが必要です。ちなみに、いずれも健康保険の適用はありません。