脱毛症には、大きく分けると二つの種類があります。成長期にもかかわらず髪が抜けてしまう成長期脱毛と、成長毛が休止期に入って脱毛する休止期脱毛で、男性型脱毛症は後者の代表例です。ちなみに成長期脱毛の代表的なものは円形脱毛症です。

男性型脱毛症とは?

さて、男性型脱毛症はAGA(Androgenetic Alopecia)とも呼ばれ、これらの名称も知れ渡ってきました。近年、この病気のメカニズムが解明され、画期的な治療薬フィナステリド(商品名:プロペシア)が登場したことがきっかけです。この治療薬のCMがひんぱんに流されたことで病院を訪れる人が増え、皮膚科医も男性型脱毛症を治療する機会が多くなりました。

では、男性型脱毛症とはどんな病気なのかというと、成人男性の前頭部や頭頂部の毛が一定のパターンで薄くなるのが特徴です。早い人では思春期を過ぎた20歳頃から発症しますが、40代の男性では発症率30パーセントと報告されています。

近年、「朝シャンでハゲる」「ストレスが抜け毛の大敵」などさまざまなことが語られていますが、ある調査では、25年前も現在も男性型脱毛症にかかる人の割合はほぼ同じでした。

男性型脱毛症にかかるのは人間だけ?

ちなみにヒト以外で男性型脱毛症にかかるのは、東アジアを中心に棲息するベニガオザルだけです。ベニガオザルには朝シャンをする習慣などないことから、これと男性型脱毛症に関連がないことは明らかです。ストレスに関しては、ベニガオザルの生活環境が変化してストレスがかかっているかどうかは分かりません。しかし、自然に棲息するサルも研究所で飼育されているサルも同じように脱毛しますから、環境因子もそう大きな関係はないのではないでしょうか。

ともあれ、ヒトの男性型脱毛症は昔もいまも3人に1人ぐらいの割合で発症するわけで、脱毛症としては比較的ポピュラーなものではあります。

男性型脱毛症が解明されるまでの年月

また、近年登場した新しい病気でもありません。しかし、そのメカニズムが解明されるまでには、実に長い年月がかかりました。男性型脱毛症の発症に、男性ホルモンと遺伝が関与しているのがわかったのは、およそ70年前。アメリカの解剖学者J・B・ハミルトンが、初めて生化学的に実証したのです。

ハミルトンは、思春期前後に去勢された人に男性ホルモンのテストステロンを投与し、発毛のパターンを観察しました。思春期以前に去勢された人は、その後の発毛パターンが一定します。

しかし、このうち家系に男性型脱毛症発症者がいる人は、テストステロンを投与すると、脱毛が始まりました。また、去勢された時点ですでに脱毛が始まっていた人の場合、去勢したことで脱毛の進行が止まりますが、テストステロンを投与すると再び毛が抜けることがわかったのです。

ここまで読んで、疑問に思った方がいることでしょう。男性ホルモンは、思春期に髭や腋毛などの毛が発育するとき、大きな役割を果たします。その男性ホルモンが、なぜ頭部の毛を失くす働きをしてしまうのか?このパラドックスは、つい最近まで謎のままでした。謎の解明が急激に進んだのは、遺伝子の活性化状態を調べることができる分子生物学の進歩のおかげです。